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【耳管開放症の治療薬】漢方では加味帰脾湯が有効。精神安定薬も効く?

解説 カラダネ編集部

耳管開放症の薬物治療ではさまざまな薬を使用するといいますが、実際にはどのような薬を使うのでしょうか。くわしい内容を専門医にお聞きしました。これから病院で耳管開放症の治療を受ける人は、ぜひ参考にしてください。

もちろん、耳管開放症を治療するさいには、この病気にくわしい耳鼻咽喉科の専門医の治療方針に従い、正しい治療を受けることを大切にしてください。

本記事は、健康情報誌『わかさ』2014年3月号にて、Q&A形式で解説いただいた記事をweb版として再編集しています。



耳管開放症の薬物治療で使う薬

耳管開放症の薬物治療では、具体的にどのような薬を使うのでしょうか。仙塩利府病院耳科手術センター長(東北大学名誉教授)の小林俊光先生は以下のように話します。

「耳管開放症は、初期であれば患者さんに病気の説明と生活指導をして、経過を観察するだけで快方に向かうことも少なくありません。治療が必要な場合は、耳管局所治療や薬物治療といった保存療法(手術以外の治療法)を行います。

薬物治療では、まず、耳管(耳と鼻をつなぐ管)の血流を増やして開いた耳管を狭めるATP(アデノシン三リン酸ナトリウム)という薬を用いるケースがあります。この薬は、メニエール病の患者さんにも処方されており、強い副作用もなく、めまい・耳鳴りの治療に広く使われています。」

耳管開放症に精神安定薬は効果がある?

耳管開放症の治療を希望すると、精神安定薬が出されることがあるといいます。精神安定薬は、本当に耳管開放症の治療に有効なのでしょうか。小林先生は以下のように話します。

「自分の声が異常に大きく響いて聞こえる、耳鳴りやめまいが続くなどの耳管開放症の症状が続くと、患者さんにとっては強いストレスになります。

しかも、そうした苦しみが周囲に理解されないと、患者さんはさらなるストレスに悩むことになります。そして、ストレスのために耳管開放症の症状も悪化し、中にはウツや不眠を招いたり仕事を休職したりする患者さんも少なくありません。

そのため、強いストレスを訴える重症の患者さんには、抗不安薬や抗ウツ薬、睡眠薬などの精神安定薬(トランキライザー)が有効なケースがあります。

とはいえ、精神安定薬は種類によっては依存性や副作用の問題があります。処方された薬を服用しても効果が得られないなら、医師に相談してほかの治療法で改善をめざしたほうが賢明でしょう」

耳管開放症に漢方薬は効果がある?

耳管開放症の治療に漢方薬が効果があると聞いたことはありませんか。本当に漢方薬は耳管開放症の改善に役立つのでしょうか。以下は、元金沢市立病院耳鼻咽喉科科長の石川滋先生に解説をいただきました。

「当院には、年間400人以上の耳管開放症の患者さんが来院されます。私は、数多くの治療を重ねるうちに、耳管開放症はストレスによる自律神経(意志とは無関係に血管や内臓の働きを支配する神経)の乱れや血流の悪化が深く関係しているのではないかと考えるようになりました。

自律神経は、通常、心身を活動的にする交感神経と、心身をリラックスさせる副交感神経がバランスを取りながら働いています。そして、耳管(耳と鼻をつなぐ細い管)は交感神経が優位なら開き、副交感神経が優位なら閉じぎみになることがわかっています。

実際、耳管開放症の患者さんは手足の冷えや立ちくらみ、肩こり、頭痛などを訴えるケースが多く見られます。これは、交感神経が優位な人と同様の特徴です。

そこで私は、耳管開放症の患者さんに、抗ストレス作用がある漢方薬の加味帰脾湯(かみきひとう)を処方しています。加味帰脾湯とは、遠志(おんじ)や酸棗仁(さんそうにん)、人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)など14種の生薬(しょうやく)を組み合わせた漢方薬で、胃腸の働きが弱い心身虚弱の人に適しています。イライラ、精神不安、ストレスの緩和、精神安定作用、貧血改善といった効果があり、不眠症や神経症の治療に健康保険が適用されます。

そもそも、私が加味帰脾湯を耳管開放症の治療に用いるようになったのは、1993年のこと。耳管開放症の患者さんに加昧帰脾湯を処方したところ、3日で症状が消失したことがきっかけでした。それ以降、耳管開放症の患者さんに加味帰脾湯を処方するようにしたところ、耳管開放症の症状だけでなく、手足の冷えや立ちくらみ、肩こり、頭痛なども改善する例が数多く見られたのです。

そこで、耳管開放症の患者さん66人を対象に、加味帰脾湯エキスを1日3回、食前に1包ずつ(2.5グラム)を1週間飲んでもらい、服用前と後で自覚症状を比較してもらう調査を行いました。その結果、自分の声が耳に響く(自声強聴)、耳がつまった感じがする(耳閉感)といった症状の消失した例が36人(54.5%)、症状の出る頻度が少なくなりやや改善した例が14人(21.3%)、症状が変わらなかった例は16人(24.2%)で、悪化した例はなく、自覚症状の改善度は75.8%にも上ったのです。

以上のことから、耳管開放症がなかなか改善しない人は、ぜひ一度、加味帰脾湯を利用することをおすすめします。利用を希望する人は、漢方にくわしい耳鼻咽喉科の医師や、漢方薬局などで相談してみてください」

このように、耳管開放症の治療には、治療薬、精神安定薬、漢方薬と、さまざまな薬が使用されます。耳管開放症で悩んでいる人は、自分に合った薬を処方してもらうためにも、耳管開放症にくわしい医師がいる耳鼻咽喉科を受診し、正しい治療を受けることを大切にしてください。

この記事は、医療や健康についての知識を得るためのもので、特定の見解を無理に推奨したり、物品や成分の効果効能を保証したりするものではありません。

写真/© Fotolia ©カラダネ

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