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【耳管開放症は治せる】治療法を医師が徹底解説。1分でよくなる新療法や手術法も網羅
小林俊光
耳管開放症は、耳鼻咽喉科で正しい治療を受けることによって改善に導くことができます。
耳管開放症について、仙塩利府病院耳科手術センター長(東北大学名誉教授)の小林俊光先生にくわしいお話を聞きました。耳管開放症の疑いがあり、これから病院で検査を受けることを検討している人は、ぜひ参考にしてください。
この記事は、健康情報誌『わかさ』2014年3月号にQ&A形式で解説いただいたものをウェブ用に再編集したものです。
耳管開放症の診察ではどんなことを伝えるべき?
耳管開放症の可能性がある人は、耳鼻咽頭科で専門医の検査を受けることが大切です。それでは、これから検査を受けようと思っている人は、医師にどのようなことを伝えればいいのでしょうか。
日頃の症状を詳しくメモして医師に伝えよう
耳管開放症は、耳管(耳と鼻をつなぐ管)が開きっぱなしの状態になる病気です。
典型的な症状は、以下の三つです。自分の声がまるで風呂場で話しているときのようにうるさく響く「自声強聴」、自分の呼吸音がゴーゴー、ザーザーと大きく聞こえる「呼吸音聴取」、耳に膜を張られたかのようにつまった感じがする「耳閉感」です。
ただし、これらの症状の現れ方は人によってさまざまです。これはなぜかというと、耳管が開きっぱなしになっている時間は人によって異なるからで、数分で閉じる人もいれば、数時間から一日じゅう開きっぱなしの人もいます。つまり、診察の際に、症状が現れていない場合も多いのです。ですから、耳管開放症の診断では、問診が非常に重視されます。
医師はできるかぎり患者さんの状態や症状を細かに聞きますが、このとき、患者さんも日ごろ悩まされている症状をくわしくメモしておいて、それを持参するといいでしょう。そうすれば、医師の診断も、より確実性が増すといえます。
体位が変わることによる症状の変化がないか
一般に、耳管開放症の診断の決め手になるのが、体位によって症状が変化するかどうかです。立ったり座ったりしているときは、症状が強く現れるのに、寝たり頭を下げたりした姿勢になると、症状が軽減します。
寝たり頭を下げたりすると、耳管の周囲にある静脈叢(じょうみゃくそう。静脈の集合体)に血液が留まり、耳管が前方から圧迫されて閉じやすくなり、症状が和らぎます。反対に、立ったり、座ったりしている場合には、血液が頭部より下のほうへと移動するため、静脈叢の血液も減少して、耳管が開きやすくなるのです。こうした体位が変わることによる症状の変化は、問診をするうえで最も重要なことです。
無理なダイエットをしたり、人工透析を受けていないか
耳管開放症を発症、悪化させる原因としては、ダイエットなどによる急激な体重減少、疲労の蓄積や睡眠不足、脱水などがあるとされています。また、腎臓病により、人工透析を受けた人の約2割が耳管開放症を発症するという報告もあります。
鼻づまりや鼻がこもるような違和感がないか
耳管開放症では、肩こり、頭痛、めまいに加え、鼻づまりや鼻がこもるような違和感が見られる場合もあります。
1日の中でどの時間帯に症状が現れやすいのか
症状をメモするときは、1日の中でどの時間帯に現れやすいのかということもあわせて記録しておくといいでしょう。私が診察した患者さんの中では、朝は比較的症状が軽く、午後になると悪化すると訴える人が多いものです。立ち仕事をする人では、長時間立ちつづけると症状が出やすくなります。どんなときに症状が軽減するか、あるいは悪化するかを気づいたときにメモして持参すれば、正しい診断をするための貴重な手がかりになります。
耳管開放症の検査方法一覧
問診が終わったら、次はいよいよ検査を行います。耳管開放症には、さまざまな種類の検査があります。
検査方法① 顕微鏡で鼓膜の動きを観察する
耳管開放症の診察で重要なのが、鼓膜の動きを観察することです。
耳管開放症では、本来は閉じているべき耳管(耳と鼻をつなぐ管)が、開放状態になるため、開放している耳管を通って、鼻咽腔(びいんくう。鼻の奥)から中耳(鼓膜の奥)に、呼吸による空気の圧力がじかに伝わります。
そのため、鼓膜が呼吸に合わせてユラユラと揺れ動く(呼吸性動揺という)ので、この揺れを直接観察できれば、それで確定診断となります。
鼓膜の呼吸性動揺があるかどうかを調べるには、イスに腰かけた状態で、患者さんに片側の鼻の穴を指で押さえて閉じたまま鼻で息を吸ってもらい、鼓膜の動きを顕微鏡で観察するという方法をとります。
検査方法② 耳抜きをして鼓膜の動きを観察する
耳管の状態は、開いたままだったり、閉じたり開いたりをくり返したりと刻々と変化するので、診察時に呼吸性動揺が観察できないことも少なくありません。この場合には、ほかの検査法をいくつか組み合わせて診察を行います。
例えば、患者さんにバルサルバ法を行ってもらい、鼓膜の状態を確認します。バルサルバ法は、鼻をつまんで口を閉じ、鼻をかむ要領で鼻から耳へと空気を送り込むという、いわゆる耳抜きの一種です。
バルサルバ法を行うと空気が耳管を通って中耳に送り込まれるので、鼓膜が外耳道側に膨らみます。このとき、健常な人であれば耳管がすぐに閉じるので、鼓膜が膨らんだ状態がしばらく維持されます。しかし、耳管開放症の人は耳管が開きっぱなしであるため、鼓膜があっというまにしぼむという性質があります。この状態を視認できれば、耳管開放症である可能性が極めて高いといえます。
検査方法③ オトスコープ
耳管開放症の診断に古くから用いられてきた方法として、オトスコープを利用する検査もあります。これは、オトスコープという細い管を患者さんの耳に入れ、患者さんの発した声がオトスコープを通して異常に響いて大きく聞こえないかどうかを医師が確認するという検査法です(下のイラスト参照)。
検査方法④ 耳管機能検査装置
耳管機能検査装置という特殊な装置を使って、詳細に検査する方法もあります。耳管機能検査装置を使えば、耳管開放症の診断の確実性がさらに高まります。しかし、現在の普及率は耳鼻咽喉科全体の約5%程度と非常に低く、設置されていないことが多いのが実情です。
検査方法⑤ CT(コンピュータ断層撮影)
CT(コンピュータ断層撮影)装置を使って耳管の画像診断を行う場合もあります。この診断方法について、次の章でくわしく説明します。
耳管開放症の検査ではCTやMRI検査を受ける必要がある?
耳管開放症の検査では、CTやMRIも必要なのでしょうか。
CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)は必須ではない
耳管開放症の診断には、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像検査が必須というわけではありません。耳管開放症の診断では、体位による症状の変化や鼓膜の状態を診察すれば、画像検査を受けなくても診断はできます。
座位CTは耳管の状態を画像で視認できる
これまでのCTやMRIは、寝た姿勢で行われていたため、寝た姿勢で症状が緩和する耳管開放症を画像検査で診断することは困難でした。ところが、座ったままで検査のできる座位CT装置の導入により、耳管開放症の画像診断は大きく進歩しました。座位CTは、そのときの耳管(耳と鼻をつなぐ管)の状態を画像で視認できます。ほかの検査法では確認できなかった耳管の閉じぐあいを実際に確認できるので、診断に役立ちます。
座位CTは耳管の緩さも確認できる
座位CT検査では、耳管の緩さも確認できます。実は、耳管の閉じ方の強さには個人差があり、もともと閉じる力の弱い人、つまり、耳管が緩い状態の人がいるのです。耳管が緩い人の中には、常に開きっぱなしで症状を訴える人もいますが、多少緩い程度のところに、体重減少や疲労の蓄積などの原因が重なることで、耳管開放症に移行する人もいます。座位CT検査は、こうした耳管開放症の重症度の判定にも役立つので、治療法の選択にも有効といえます。
耳管開放症の一般的な治療法一覧
検査の結果、耳管開放症であることがわかったら、専門医のもとで正しい治療を受ける必要があります。
耳管開放症の原因はさまざまで、人によって異なります。中には、原因がわからない患者さんも少なくありません。そのため、治療では、問診や検査で原因を推測した上で、生活指導や薬物療法などの保存療法(手術以外の治療法)を行います。
治療法① 生活指導
生活指導では、例えば、体重の減少がきっかけで耳管開放症が起こった場合は、体重増加を図ることが必要になります。脱水も耳管開放症の原因になるので水分を補うように指導します。さらに、なるべく横になって耳管への血流をよくしたり、ストレスを過度にためないようにしたりすることも大切です。
治療法② 腎透析をしている人への説明
腎透析をしている人にも耳管開放症の症状が出る場合があるので、こうした患者さんには透析に伴う症状であることを説明します。
治療法③ 薬物治療
薬物療法では、ATP(アデノシン三リン酸ナトリウム)や漢方薬の処方されることがあります。また、症状によっては精神安定薬(トランキライザー)が処方されるケースもあるようです。
治療法④ 生理食塩水の点鼻療法
耳管開放症の症状を軽減するために、少量の生理食塩水を点鼻して耳管内に流入させる治療法を行うことがあります。生理食塩水が鼻腔(びくう)から耳管腔に届いて、開いている耳管を閉じることができます。この治療は、慣れれば患者さん自身が自分でできるうえに短時間で症状が改善するため、効果の大きい方法といえます。
治療法⑤ 鼓膜テープ療法
鼓膜に薄い小さなテープを貼る治療で症状が軽減する人もいます。
以上のような治療をきっかけに、症状が改善に向かうケースは少なくありません。
しかし、こうした治療を長期に続けても改善しない重症の耳管開放症に対しては、外科的な手術を考慮します。手術は、ピン状のシリコンを耳管に挿入する方法や、ポリウレタン製のチューブ(人工耳管)を挿入したり、患者さんのおなかの脂肪を耳管の粘膜の下に移植したりして、開いている耳管を狭くする方法など、いくつかのやり方があります。これらの手術が、保存療法で改善せず苦痛の大きい重症例に対して一定の成果を上げているのです。
耳管開放症が1分でよくなる新療法があるって本当?
耳管開放症には、さまざまな治療法がありますが、一般には、体重を増やしたり十分な水分補給をしたりする生活指導を行います。
そうしたことと並行して、耳管(耳と鼻をつなぐ管)に薬剤などをつけて耳管を閉じる治療法を行います。
効果が数時間から半日しか継続しない生理食塩水の点鼻療法
耳管に薬剤などをつけて耳管を閉じる治療法の中で、まず有効なのが、生理食塩水を点鼻する治療法です。生理食塩水の点鼻療法は、患者さん自身が鼻から食塩水を流し込む方法です。
生理食塩水には、鼻の穴を通って耳管に届くと、開いている耳管を閉じて自声強聴(自分の声が大きく響くように聞こえる症状)や呼吸音聴取(自分の呼吸音が聞こえる症状)、耳閉感(耳がつまった感覚)といった症状を速やかに改善する作用があります。短時間で効果が得られ、しかも簡単に取り組める優れた治療法だといえます。
ただし、この治療法は、効果が数時間から半日程度しか持続しないという難点があります。そのため、一日に何回もくり返して行わなければなりません。
効果が一週間前後持続するルゴールジェル注入療法
外来ででき、効果も比較的長続きする治療法もあります。それが、口腔(こうくう)乾燥症などでロ内を保湿するのに使われるジェルに、のどの殺菌に使うルゴール液という薬剤をまぜて、ルゴールジェルを耳管内に注入する治療法です。
ルゴール液には、耳管の粘膜を刺激して軽い炎症を起こし、開いた耳管を狭くする作用があります。しかも、ジェルが耳管に留まるため、効果が比較的長続きするのです。
ルゴールジェル注入療法のやり方は、口腔内保湿ジェル10に対し、ルゴールを1の割合でまぜた薬液を、鼻から入れた管を通じて耳管内に注入するだけ。治療にかかる時間はわずか数分で、慣れた医師なら1分足らずで行えます。内視鏡で観察しながら治療を行うため安全性も高く治療中の痛みもほとんどありません。そのうえ、平均して効果は1週間前後も持続します。
ルゴールジェル注入療法は、古くからある局所療法を改良したものです。一般の耳鼻咽喉科でも、この方法か、類似の局所療法を採用しているところが徐々に増えていると思われます。専門の耳鼻科医に相談してみるといいでしょう。
耳管開放症の手術の方法
生活指導や薬物療法などの保存療法で改善を長期に行っても耳管開放症が改善せず、日常生活への支障が高度な場合は、手術を検討します。
耳管開放症の手術を受ける条件
手術が必要かどうかの見極めは、まず、次の①~③に該当するかを調べます。
①寝ているとき以外は、ほぼ一日じゅう、自声強聴、呼吸音聴取、耳閉感などの耳管開放症の症状がある
②毎日、症状に悩まされる
③6ヵ月以上も症状が続いている
①~③のいずれかに加えて、座位CT(コンピュータ断層撮影)などの検査で耳管(耳と鼻をつなぐ管)の開放が大きいことが確認できた場合、重症と判断して手術を行います。
ピン状のシリコンを耳管に挿入する手術を行う
私たちが重い耳管開放症を改善するために行っているのが、ピン状のシリコンを耳管に挿入する手術です。これは、鼓膜を麻酔したあとに鼓膜を小さく切開し、そこに長さ23ミリ、先端が1~2ミリのピン状のシリコンを差し込み、耳管をふさぐ方法です。外来あるいは短期入院での手術が可能です。
この手術を行うと、自声強聴(自分の声が大きく響くように聞こえる症状)や呼吸音聴取(自分の呼吸音が聞こえる症状)、耳閉感(耳がつまった感覚)などの症状が速やかに改善します。これまでに百数十例の手術を行って、70%以上の有効性が確認されています。
実際、手術直後から自声強聴などの症状が消失しているケースが多く、これまで日常生活に支障が出るほど苦しんできた重症の患者さんが多いだけに、とても喜ばれています。
ただし、挿入したピンがゆるんでしまった場合は、外来での再手術が必要になります。また、鼓膜切開の孔が残るなどの合併症が起こる可能性があることは留意してください。
なお、耳管開放症の手術には、この手術のほかにポリウレタン製のチューブ(人工耳管)を埋め込む方法も開発されています。
※短期入院をして手術を行う場合もあります。
今回は耳管開放症の治療法や手術について紹介しました。耳管開放症は、ほかの耳の病気と比較して、まだ耳鼻咽喉科の医師の中でも知名度が低く、新しい事実や治療法が発見される可能性が大いにある病気です。正しい治療を受けるためにも、耳管開放症にくわしい医師に診てもらうことが大切であることを忘れないでください。
この記事は、医療や健康についての知識を得るためのもので、特定の見解を無理に推奨したり、物品や成分の効果効能を保証したりするものではありません。
写真/© Fotolia ©カラダネ
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