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【認知症予防の簡単運動】専門医2人が推奨「8の字スクワット」「親指曲げ」のやり方。記憶力アップに役立つ!?

解説 カラダネ編集部

認知症を発症する人の中でも、約65%を占めるのが「アルツハイマー型認知症」。
このタイプの認知症は、脳の深部にある嗅内皮質という「海馬」に近い部位が最初に衰えるとされています。とはいえ、最近の研究では対策しだいで、海馬を含めた脳の神経細胞が成長することがわかってきています。

アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症の種類について知りたい方は、一番下の関連記事をご覧ください。
この記事では、海馬の神経細胞を成長させ、認知症予防に役立つ運動法を紹介します。「脳の学校」代表であり、医師の加藤俊徳先生に話をお聞きしました。

認知症が疑われる人は、放置をせずに専門医の診察を受けることが大切です。



海馬を活性化させる秘策で、認知症の予防を効率的に

海馬を活性化させるしくみについて、加藤俊徳先生は次のように話します。
「認知症を防ぐには、海馬を活性化させることが重要とされますが、実は、海馬は脳のほかの場所と連動して働いているため、単独で活性化させるのは難しいのです。

そもそも、私たちの脳は、海馬をはじめ部位によって担っている働きが違います。例えば、
●物事を考えたり判断したりする『思考系』の働き(例.前頭前野)
●情報をまとめて理解を深める『理解系』の働き(例.頭頂葉)
●喜怒哀楽に関係する『感情系』の働き(例.扁桃体)
などがあります。

そのほかにも『記憶系』、『視覚系』、『聴覚系』、『運動系』、『伝達系』があり、海馬は情報を蓄えたり、思い出したりする記憶系の主力です。私は、このように同じような働きをする脳細胞の集まりを脳番地と呼んでいます。

brain-spot.jpg音楽を聴いたり何かの香りをかいだりしたときに、それがきっかけで記憶がふとよみがえった経験がありませんか?
また、漫然と経験したことより、うれしかったり、悲しかったり、驚いたりした経験ほど、より強く記憶に残っていると思います。勉強をするときも、ただ丸暗記するよりも、語呂合わせをしたり意味をきちんと理解したりしたほうが効率的に覚えられるものです。

つまり、私たちが物事を記憶するときは、海馬だけでなく、思考系・感情系・視覚系・聴覚系などのほかの脳番地も連携して働いているというわけです」(加藤先生)

脳全体を連動させて海馬の活性化に役立つ!? 8の字スクワット

そんな加藤先生が、海馬を活性化させるのに役立つ運動としておすすめするのが、8の字スクワット。
「8の字スクワットとは、丸めたタオルを手に持ち、決まった手順に沿って手を8の字のように動かす体操。ひざを曲げた姿勢をとるため、スクワットと名づけました。
8の字スクワットの手順を説明しましょう。

8の字スクワットのやり方

brain-squat1.jpg①肩幅より足を広げ、左手に丸めたタオルを持つ。腰を落とした状態で、股(また)の下でタオルを右手に持ち変える。

②タオルを持ち変えた右手を前方から頭の上まで上げる。同時に足も伸ばし、目は右手の動きを追う。
brain-squat2.jpg③右手を伸ばしたまま背泳ぎするように、腕を後ろに回す。徐々に腰を落としながら、タオルを股のあいだで左手に持ち変える。

④タオルを目で追いながら、左手を前方から頭の上まで上げる。

ゆっくりとていねいに、間違えのないよう注意して行うのがポイントです。そうすることで、思考系、伝達系、視覚系が連動して働き、それとともに海馬を含む記憶系も活性化するのです。
ただし、手順を覚えて慣れてしまうと、海馬が活性化しにくくなってしまいます。右手と左手を入れ替えるなどして、新たに脳を刺激するよう工夫するといいでしょう」(加藤先生)

脳の活性化は手指の動きと密接に関係している

続いて、海馬の活性化に役立つ運動を紹介いただいたのは、長谷川嘉哉先生です。長谷川先生は、認知症の専門外来、および在宅医療を行うクリニックを岐阜県で開業しています。
「私は、毎月1000人以上の認知症患者さんと接しています。その中で、手指を積極的に動かすと、脳が刺激されて活性化することに気づきました」(長谷川先生)

長谷川先生はなぜ、手指に着目したのでしょうか。
「大脳を細かく見ていくと、思考や判断、言語を司る前頭前野、知覚や感覚を司る頭頂葉、記憶を司る『海馬』がある側頭葉などがあります。
専門的には、さらに領域という概念で区別されます。領域で特に重要とされるのは、知覚情報を担う領域の感覚野と、運動情報を担う領域の運動野です。

感覚野は、私たちが物をさわったときに、その感触を知るためのもの。一方の運動野は私たちが体を動かすときに、それに対応した筋肉を動かす命令を出すものと考えればわかりやすいでしょう。

実は、手を動かすと感覚野と運動野の神経細胞が広く刺激されます。これを示した図をペンフィールドのホムンクルス(小人)といいます。カナダの脳神経外科医で、神経解剖学者であったペンフィールド博士が、脳にある感覚野と運動野の神経細胞がどこを支配するかを示したものです。その図によると、5本の指と手のひらを合わせて、感覚野では人体の約4分の1、運動野では人体の約3分の1を支配しているとされます。

s_コペンクルス.jpgこのことから、特に、手の指は第2の脳であるといわれ、手の指を動かすことが脳の若返りに役立つと知られるようになりました」(長谷川先生)

認知症の対策で、5本の指を動かす重要性を確認

手指の動きと脳の若返りとの関連は、リハビリ指導の経験から実感したと長谷川先生はいいます。
「私はもともと、認知症対策として、リハビリを重要視しています。厳密にいうと、リハビリには2つのステップがあります。
s_リハビリ.jpgまず、最初に行うのが理学療法士によるリハビリで、生活に必要な動作を可能にすることが目的です。次に行うのが作業療法士によるリハビリで、腕・手指の関節の動きや筋力、手指の細かい動きなどの回復をめざします。具体的には、積み木を使ったり、はしで豆をお椀に物を移したりするといった細かい動作の練習をします。

私は、医療の現場で、リハビリのようすを見ているうちに、作業療法士による手の5本指を使うリハビリが脳に大変いい刺激を与えていると思うようになったのです」(長谷川先生)

親指曲げは、脳全体の血流を促して海馬を活性化させる可能性が

5本の指の中でも、長谷川先生が特に注目したのが親指の動きでした。
「親指の動きを観察していると、いろいろなことがわかってきました。例えば、文字を書くところ、コップを持つところ、洋服のボタンをはめるところなどの動作を思い浮かべてください。みなさんも、すぐにわかるはずです。親指は、ほかの4本の指に比べて、よく動いています。

親指があるからこそ望む動作を行うことができ、そのために私は、親指は意欲の象徴であるとして、脳の活性化には親指を積極的に動かすことが何より必要だと考えるようになったのです。

そして、親指を動かすことによって、脳がどう変化するかを調べたところ、脳の感覚野や運動野、意欲の源とされる前頭葉の血流がアップすることがわかりました。これらの血流がアップするというのは、海馬の神経細胞を増やすのにもきっと役立つし、脳全体の血流が増して、脳が活性化することが容易に想像できます。

では、脳の若返りを目的に親指を刺激するには、いったいどうすればいいでしょうか。その方法はいろいろありますが、ここで紹介したいのは『親指曲げ』です。

親指曲げのやり方

親指1.jpg①背すじを伸ばしてわきを締め、ジャンケンのグーの形を作り、親指をピンと伸ばす。

親指2.jpg②親指の第一関節を曲げる。

①と②を10回くり返す。

親指曲げは、1回につき3分程度ででき、やれば脳が大いに活性化されます。毎日、朝・昼・晩の3回行えば、物忘れしにくくなり、ひいては物忘れ知らずの元気脳になるでしょう」(長谷川先生)

もちろん、認知症が運動だけでよくなるわけではありません。認知症が心配な人は、必ず病院で診てもらうことが重要です。

記事にあるセルフケアは安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。


写真/© Fotolia ©カラダネ

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