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痛風を招く「高尿酸」は慢性腎臓病(CKD)の隠れ原因|痛風腎や腎結石が引き金に
谷口敦夫
みなさんは、「痛風」にどのようなイメージをお持ちですか。「布団をかけても痛みが強くなる」「タンスが乗っかったような痛みが足の親指に生じる」など、痛風関節炎特有の痛みの表現を聞いたことがあるはずです。
しかし、痛風の恐ろしさはそれだけではありません。痛風の原因となる尿酸は、高血圧や高脂血症、脳血管障害など多くの合併症と関係すると考えられているからです。
数ある合併症の中でも、腎機能と関係する「痛風腎」と「腎結石」には注意が必要です。東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター教授の谷口敦夫先生に話をお聞きしました。
痛風やその合併症の可能性がある方は、専門医の治療を受けることを忘れないでください。
高尿酸血症の発症までの流れ。痛風による痛みの原因は?
通常、尿酸は尿や便などとともに体外に排出されます。しかし、代謝異常によって過剰に尿酸が作られたり、尿酸の排泄が滞ったりすると、尿酸が血液中に増えすぎてしまいます。血液中の尿酸の量が基準値(1dl当たり7mg)を超えると高尿酸血症と診断されます。
尿酸は体内ではナトリウムと結びついて尿酸塩として存在します。高尿酸血症が長く続くと、尿酸塩が関節に沈着します。痛風関節炎はこのために起こります。
腎臓の痛風「痛風腎」とは?症状は?透析になる可能性
尿酸塩の沈着は、腎臓も例外ではありません。尿酸は、尿酸塩(尿酸)として腎臓に沈着します。尿酸は高血圧や高脂血と関係しますが、これらは動脈硬化とも関係します。そうした影響を受けて、腎機能が低下すると「痛風腎」と呼ばれる状態になるのです。
そもそも血液中の尿酸は、腎臓に100万個存在する糸球体のフィルター(基底膜)でろ過されます。痛風腎を起こして慢性腎臓病(CKD)となると、尿酸のコントロール自体もうまくいかなくなります。尿酸が多い状態が続くと、さらに腎機能が低下する悪循環に陥り、場合によっては透析治療が必要になることすらあります。
痛風腎により慢性腎臓病になっても、腎臓は我慢強い臓器であるため、症状は病状がかなり悪化しないと現れません。そのため、何の症状も出ないままゆっくりと病状が悪化し、むくみなどの症状が出て初めて気づくこともあります。
痛風関節炎などの症状をすでに経験している人は、主治医に相談して血液検査や尿検査を受けて、腎機能が低下していないかを確認しておくべきです。
痛風で起こる「腎結石」も腎臓を傷つけるため危険
痛風や高尿酸血症の人は、結石が腎臓に生じる「腎結石」も起こりやすくなります。結石は、腎臓にある時点ではほとんどは痛みがありません。しかし、これが尿路へと移動し「尿路結石」になると事態が一変します。
尿路結石では突然背中からわき腹にかけて激しい痛みに襲われ、冷や汗が出たり嘔吐したりすることがあります。また、腎盂(腎臓と尿管の接続部)から尿管にかけて傷つけて血尿を引き起こすこともあるのです。
こうした状態が続くと、腎盂が閉塞状態となり、尿が腎臓にたまる水腎症を招きます。すると、尿によって腎臓が圧迫され、ひどい場合には腎不全を起こすのです。また、腎結石を除くには水を多めに飲むことがすすめられますが、腎臓の機能が落ちている場合は、これも難しくなります。
日本では、痛風の患者さんの10〜20%が尿路結石を合併していると考えられています。一部の患者さんは、痛風発作が起こるより前に尿路結石を経験しており、両者には密接な関係があります。また最近では、腎結石はメタボリックシンドロームとの関連があると考えられるようになっていますので、注意してください。
高尿酸の対策❶|食事でのプリン体摂取を控える
痛風を招く尿酸は、腎臓を傷める痛風腎や腎結石の原因になることを説明しました。それでは、増えすぎた尿酸を体内から減らすための具体的な方法をお教えしましょう。
尿酸を減らすために最も大切になるのが、食生活です。中でも気をつけるべきは、尿酸を増やす原因として有名なプリン体の摂取になります。
意外と知られていませんが、食事で体内に吸収されるプリン体は食品全体の10〜20%であり、体内で生成される分量より少ないことがわかっています。そのため、過度に神経質になる必要はないですが、とりすぎてはいけません。
プリン体の「多い食品」「少ない食品」リスト
鶏レバー、真イワシの干物、あん肝、干ししいたけ、干しエビ、煮干し、ちりめんじゃこ、シラス干し、など。
豚レバー、牛レバー、カツオ、真イワシ、大正エビ、真アジの干物、サンマの干物、など。
うなぎ、ワカサギ、豚ロース肉、豚バラ肉、牛肩ロース肉、ボンレスハム、プレスハム、ベーコン、ホタテ、ホウレンソウ、カリフラワー、など。
牛乳、チーズ、コンビーフ、魚肉ソーセージ、かまぼこ、さつま揚げ、数の子、スジコ、ウインナー、豆腐、鶏卵、とうもろこし、ジャガイモ、サツマイモ、キャベツ、トマト、ニンジン、白菜、海藻類、など。
食品ごとに含まれる量を把握して1日の摂取量が400ミリグラム以下になるように気をつけましょう(日本痛風・核酸代謝学会「高尿酸血症・痛風のガイドライン第2版」より)。
高尿酸の対策❷|尿をアルカリ化してくれる食品の摂取
尿をアルカリ化してくれる食品の積極的な摂取も大切です。健康な人の尿は、PH6.0付近の弱酸性に保たれています(PH7が中性)。しかし、体内に尿酸が多く、高尿酸血症・痛風腎・尿路結石などを患っている人はPH5.5以下の酸性になりやすい傾向があるのです。
尿酸は、尿が酸性の状態では溶けにくく、かたまりやすくなります。そのため、尿酸値が高い人は、アルカリ性の食品をとって尿を弱酸性の状態へ戻すのがいいでしょう。
代表的なアルカリ性の食品には、ヒジキ・ワカメ・コンブなどの海藻類、大豆、ゴボウ、サツマイモ、サトイモ、キノコ類があげられます。これらの食品は、プリン体の含有量も少ないので、尿酸対策に適しています。
高尿酸の対策❸|試験で痛風のリスク減が判明!乳製品の摂取
牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品は、プリン体が少ないだけでなく、尿酸値を下げる作用があることが示されています。
乳製品で尿酸値が下がる
アメリカのマサチューセッツ総合病院リウマチ科のヒョン・コワ博士らが行った調査によると、牛乳とチーズなら1日当たり計量カップ1杯(200ミリリットル)以上、ヨーグルトなら0.5杯(100ミリリットル分)以上摂取していた人は、尿酸値が有意に低いことがわかりました。また、痛風の発症リスクも低減していました。
牛乳はカゼインとラクトアルブミンなどの豊富なたんぱく質を有しており、しかも低プリン体食です。このことが尿酸値を下げ、尿酸の排出をスムーズにしてくれます
尿酸対策として非常に優れている乳製品ではありますが、カロリーや脂肪分が気になる人もいるかもしれません。実際、肥満と尿酸値との間には密接な関係があり、太っている人ほど尿酸値が高く、減量するにつれて尿酸値が低くなることが知られています。
そのため、毎日とる乳製品としておすすめするのは、低脂肪乳です。低脂肪乳でも通常の牛乳と同様、あるいはそれ以上の作用が得られると考えられます。1日当たり200ミリリットル以上を目安に毎日とりましょう。
(出典)Choiら、Intake of purin-rich foods, protein, and dairy products and relationship to serum levels of uric acid :the Third Health and Nutrition Examination Survey. Artritis Rheum 2005;52:283-9
痛風リスクを下げる2大注目|コーヒーとビタミンC
2017年現在、痛風のリスクを下げると確認され、注目を集めているのが「コーヒー」と「ビタミンC」です。
アメリカの調査によると、コーヒーを1日4〜5杯飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて痛風の発症リスクが約4割下がっており、コーヒーを1日当たり6杯以上飲む人は約6割下がっていました。
こうした作用がコーヒーのどの成分によるものなのか、くわしいことはわかっていませんが、カフェインによる作用ではないことは確かです。なぜならデカフェ(カフェインレスのコーヒー)でも同様の作用があるといわれているからです。
コーヒーは、痛風リスクを高める砂糖を入れないブラックで飲むといいでしょう。ブラックコーヒーが苦手な人は、前述の低脂肪乳を加えてみてください。
ただし、痛風や高尿酸血症ですでに結石ができたことがある人には、コーヒーはおすすめできません。というのも、コーヒーに含まれるシュウ酸という成分は、体内のカルシウムと結合してシュウ酸カルシウムになり、これが腎臓で大きくなると腎結石になるからです。痛風や高尿酸血症の人に生じる腎結石には尿酸結石とともにシュウ酸カルシウム結石も多いのです。
続いて、ビタミンCには尿酸のを促進する作用や生成を抑制する作用が報告されており、このために痛風のリスクや尿酸値を下げると考えられています。通常の食品からでも栄養補助食品から摂取しても同様の作用があるとされています。
ただ、ビタミンCは代謝のさいに一部がシュウ酸になるので、コーヒーと同様に、腎結石ができたことがある人にはおすすめできません。
このように痛風のリスクを下げて高尿酸血症を予防するには、食生活の改善が大切です。摂取を控える食品、摂取してよい食品をうまく組み合わせて、よりよい生活習慣をめざしましょう。
記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。
写真/© Fotolia ©カラダネ
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