5万7000人が健康習慣にする体操【自彊術】とは。開発ストーリーや100年続く歴史を解説|カラダネ

カラダネ(わかさ出版)
医師や専門家とあなたをつなぐ、
健康・食・くらしのセルフケアが見つかる情報サイト

5万7000人が健康習慣にする体操【自彊術】とは。開発ストーリーや100年続く歴史を解説

解説 上山田病院整形外科医
吉松俊一

ラジオ体操やヨガ、ピラティス、太極拳など、健康維持を目的とした数ある運動の中で、元祖健康体操として、再び脚光を浴びているのが、「自彊術(じきょうじゅつ)」です。

自彊術について、初めて知ったという人も多いかもしれません。しかし、実は医大教授をはじめ、元首相などが健康維持のために実践していたとされるほど、その健康作用への信頼は確かなものでした。自彊術に精通した、整形外科医の吉松俊一先生に話をお聞きしました。



セルフケアの先駆けで、歴史はラジオ体操よりも古い

現代では、病気にかかると病医院を受診して薬や注射、あるいは手術などの治療を受けることが当たり前になっています。特に、国民皆保険制度で誰もが等しく医療を受けられる日本では、病医院への依存度が高いといえるでしょう。

しかし、私たちの体には、みずから病気を治す自己治癒力が誰にも備わっており、医師は患者さんの自己治癒力を引き出すための手助けを行っているにすぎないのです。日本も100年前までは、鍼灸や整体、漢方といった患者さんの自己治癒力を引き出す伝統医療が積極的に行われていました。
実は、そのころに、日本中で大ブームを巻き起こした健康体操こそが「自彊術」です。

自彊術は、大正時代から行われている自力療法を目的とした健康体操の先駆けであり、ラジオ体操よりもはるか昔から行われています。全31種類の動作(体操)を順番に行うことで、健康を増進して病気も改善に導くことを目的としています。

みなさんも気になっている自彊術の「自彊」の意味。
自彊とは、中国の経典「易経」に書かれた一節「天行健君子以自彊不息(てんこうけんなり、くんしはもってみずからつとめてやまず)」に由来します。これは簡単にいうと、「健康維持の努力を怠ってはならず、それはみずから実行しなければならない」ということです。

自彊術ブームの火付け役は、明治維新の功労者

自彊術は、天才治療家として名を馳せた中井房五郎(なかい・ふさごろう)氏によって1916(大正5)年に考案され、実業家の十文字大元(じゅうもんじ・たいげん)氏が普及に努めていました。

jikyoujutu-inventor.jpgさらに、当時の大政治家だった後藤新平(ごとう・しんぺい)氏が自彊術の愛好家だったことから評判になり、日本中へと一気に広まっていったそうです。

後藤氏は、台湾在任中に感染した赤痢(せきり)が西洋医学では完治せず、帰国後も下痢に苦しんでいました。そんなときに、中井氏の治療によって赤痢の症状が見事に改善したため、自彊術を絶賛したのです。
拓殖大学の学長も務めていた後藤氏は、学内で結成された「自彊会」を後援したほか、他大学や財界の人々にも自彊術をすすめ、日本中に広がる礎を築きました。

また、内閣総理大臣を二度にわたって歴任し、早稲田大学を創設した大隈重信(おおくま・しげのぶ)氏は、健康維持のために自彊術を日課としていたといいます。

jikyoujutu-past.jpg中井氏が亡くなってからは後継者が育たなかったり、戦災で道場が焼けたりしたことも重なったため、いったん自彊術は衰退しました。
しかし、昭和の半ばに医師の近藤芳朗(こんどう・よしろう)氏と妻の幸世(さちよ)氏が自彊術の普及に努めたことにより、再び脚光を浴びるようになったのです。

そして、これまでの100年間で延べ300万人以上が自彊術を実践し、2017年現在も約5万7000人が日本各地にある自彊術の教室で体操に励んでいます。そうした人の中には、慢性痛や難病を克服できた人も少なくありません。

自彊術開発の原点は治療家の使命感「一人でも多く救いたい」

大正時代の初期、医療制度が十分ではない中、東京の両国に行列のできる治療院がありました。その治療院の名前は「新式摩擦術療養本院」。そこの治療家こそが、中井房五郎氏でした。

そして、行列の中の患者の一人だったのが、十文字大元氏です。中井氏の治療によって難病といわれる脊髄炎を克服し奇跡を起こした一人でした。治る患者が増えると、さらに評判を聞きつけて、患者は増えていきます。ついには、遠方から来たり、朝早くら並んでも、とても中井氏の治療を受けることができないという状況に陥っていたといいます。

そうした状況を見ていた十文字氏が、中井氏に相談したといいます。「中井氏のもとに来ている人たちも、治療を受ければきっと治る。病気を経験した私だからわかる。元気になりたいという気持ちは誰もが同じはず。それならば、中井氏の手を借りずに自分でできる方法はないだろうか」と。これが、自彊術の始まりだったのです。

カラダネ限定で、自彊術の開発ストーリーを漫画でも紹介しています。とてもわかりやすいので、こちらをぜひご覧ください。

自彊術の全31動作には、考案者の中井氏が施術していた整体・あんま・マッサージといった治療法の要素が含まれています。したがって、自彊術の全31動作を実行することは、これらの治療を受けるのと、ほぼ同じ作用が期待できるのです。

また、さまざまな研究から、自彊術は古代中国の運動療法である「按蹻(あんきょう)導引術」の流れをくんでいることがわかっています。「按」はあんまや指圧、「蹻」はなでること、すなわちマッサージを意味します。つまり、自彊術を行うと、指圧によるツボ刺激とマッサージによる整体作用が一度に得られるのです。

もちろん、自彊術を行えば誰もが健康の悩みを克服できるわけではありません。また、たくさんやればやるほどいいというものでもありません。
病院で専門医の治療を受けたうえで、セルフケアの一環として自彊術を実践することが何より肝心です。

記事にあるセルフケア情報は安全性に配慮していますが、万が一体調が悪化する場合はすぐに中止して医師にご相談ください。また、効果効能を保証するものではありません。

写真/©自彊術普及会 © Fotolia ©カラダネ

関連記事

この記事が気に入ったらいいね!しよう