認知症になる人、ならない人の違いは?〜誰にもある脳の「結晶性知能」を刺激しよう〜|カラダネ

カラダネ(わかさ出版)
医師や専門家とあなたをつなぐ、
健康・食・くらしのセルフケアが見つかる情報サイト

認知症になる人、ならない人の違いは?〜誰にもある脳の「結晶性知能」を刺激しよう〜

解説 米山医院院長
米山公啓

私たち人間は、年を重ねるにつれて衰えていきます。老眼が進み、耳が聞こえづらくなり、筋力も衰え、肉体的な能力は落ちていくでしょう。
認知症にもなりやすくなります。

では、誰もが認知症になるのかというとそうではありません。認知症を防ぐためには、年齢を重ねてもなお向上する「ある知能」を育てることが重要です。簡単にできます。
人工知能もすごいのですが、人間の脳はもっとすごい!

専門医の米山公啓先生に話を聞きました。

認知症を防ぐには、年齢を逆に味方につけよう

私は以前、江戸時代に50歳を過ぎてから全国を歩いて90歳までに1000体の仏像を彫った木喰上人(もくじきしょうにん)という僧のことを知り、人間は年齢に関係なく、前向きに生きることができるのではないかと興味を持ちました。
そうした人たちは、認知症にもならずに晩年まで活躍していたからです。
そこで人生の後半に活躍した人たちを調べた結果、時代に関係なく、さまざまな分野で年を重ねても事業に成功したり、後世に残る偉業を成し遂げたりした人がたくさんいたことを知りました。

例えば、人生50年といわれた時代に55歳から日本中を歩いて日本地図を作り上げた伊能忠敬、40歳で職業作家として歩むことを決意した夏目漱石などは、年を重ねて積み重ねた人生経験を自分の財産として花開かせた典型的な例でしょう。
Dementia and brain2.jpg
海外に目を向けても、76歳で核兵器廃絶を訴えたアインシュタイン、65歳で一文無しの状態からケンタッキーフライドチキンを作り上げたカーネル・サンダースなど、年を重ねて大成した人たちがおおぜいいます。彼らは、年齢という枠を超えて希望と夢を持ちつづけ、常に思考し、行動するといった充実した人生を歩んでいました。

ところが、こうした人の話をすると、必ず、「あの人たちは特別だから」「自分は凡人なので、こうした生き方はできない」といわれます。本当にそうなのでしょうか。

神経内科の専門医であると同時に、作家としてさまざまな人の生きざまを見てきた私は、こうした生き方は、年を重ねた人であれば誰にでもできると断言できます。そうすれば認知症とも無縁になれるはずです。
しかも、私自身も60代半ばになり、年を重ねることで見えてきたものがたくさんあります。重ねた年齢は、何よりもすばらしい財産なのです。

年齢が味方になる。結晶性知能とは?

最近、脳科学の観点からも、年齢を重ねることで脳が発達すると判明しました。

人間の能力は「流動性知能」と「結晶性知能」の2つに大別できます。流動性知能とは、簡単な物覚えや動作に現れる能力で、結晶性知能は、物事を判断したり、覚えたことを生活に生かしたりする能力です。
流動性知能は、年を重ねるにつれて衰えていくため、新しいことを覚えたり情報を素早く処理したりする能力は、どうしても若い人にかなわなくなります。

ところが、結晶性知能は、年を重ねても衰えることはありません。逆に、積み重ねた人生の経験によって、いつまでも向上させることができるのです。まさに「亀の甲より年の功」というわけです。人生の経験を積み重ねるためには、時間が必要です。こうした経験は、本を読んだり人の話を聞いたりするだけでは、得ることはできません。

本で読んだことと、実際に経験したことの大きな違いは、感情の動かされ方に差があることです。感情が大きく動かされると脳が刺激され、そのときの記憶は忘れない記憶となります。人生の経験が豊富なほど忘れない記憶が多くなり、それが知恵や見識を高めることにつながります。

結晶性知能の中で代表的なものに、判断力があります。判断というのは、頭の回転が速いだけでなく、積み重ねた経験がないと的確に下せないものです。まして、さまざまな状況を考察し将来も見据えて総合的に判断する能力は、ある程度の年を重ねないと発揮することができません。

最初に紹介した人たちは、それまで培ってきた経験や学習に基づいて最も的確な判断を下せるという結晶性知能を十分に備えていた人たちでした。困難なことをいかに切り抜けるか、多くの要素の中から何を選択するかといった総合的な判断力、若者よりも年長者のほうが、圧倒的に優れているのです。これは、私自身の経験からも、はっきりいえることです。

それをきちんと自覚して生きることで、脳はますます元気になって認知症とも無縁になれるのではないでしょうか。

年齢とともに向上する結晶性知能。年齢こそ財産!

英国の乾杯の祝辞に「年を経るほどよくなるものは4つ。古木は燃やすによし、古いワインは飲むによし、古い友は信頼するによし、老齢の著者による本は読むによし」という言葉があります。
古木はともかく、残りの3つに共通するカギは「成熟」です。特に4つめの老齢の著者による本には、人間が成熟する過程で得られた人生の機微や知恵が詰まっています。

成熟とは、年齢を財産にすることといえます。年を重ねて得た知恵や見識を積み重ねて、人間は成熟してきます。そうなって初めて「年齢は最高の財産」となるのです。

ところが、団塊の世代に対する調査を見ると、定年後は「ゆっくりしたい、何もしない」と答えた人が多かったと報告されています。これでは、肉体も精神も老化の一途をたどり、結晶性知能も衰えていきます。年を重ねることで高まる能力とはいえ、やはり個人差は大きいものです。

結晶性知能を高める4つの生活習慣

認知症を防ぐためには、結晶性知能を向上させてください。年齢を最高の財産にしようという考え方が重要です。次に示すような要素を日常生活にとり入れていくことが大切です。

●人と出会う機会をつくる
脳は同じことのくり返しに弱く、常に新しい刺激や情報を求めています。刺激のある環境に身を置いてこそ、結晶性知能は高まります。
定年になれば人とのつき合いも疎遠になり、一日じゅう誰にも会わないことも多くなりがちです。なるべく多くの人と接して話す機会を、意識して作りましょう。

●生きがいを見つける
人生を実り豊かに過ごしていくには、自分にとっての「生きがい」を手に入れることが大切です。とはいえ、「生きがいを見つけられない」という人も少なくありません。
私は、生きがいを見つけるヒントは、自分の好きなこと、得意なことの中にあると考えています。人生後半になって全く違う分野に手をつけるよりは、今まで経験してきた仕事や趣味の中に生きがいになることを見つけ、それを伸ばしていくのです。
趣味や習い事を生きがいにつなげるためには、「一歩上を目指す向上心」を持つことが必要になるでしょう。

●決してあきらめない
年を重ねるにつれ、ものが思い出しにくくなったり、動作がゆっくりになったりします。何をするのも遅くなると、途中であきらめてしまう人が少なくありません。
しかし、あきらめたときにチャンスはなくなります。ノーベル賞を受賞したような科学者でも、あきらめずに時間をかけて研究を続けたからこそチャンスが巡ってきたのです。そこに積み重ねた経験が加われば、若者にはできないような発見やひらめきが起こる可能性もあります。40代後半で作家になるため大学病院を退職した私は、このことを身を持って実感しています。

●体の健康を保つ
体が健康でなければ、人と出会い、生きがいを見つけて行動することも難しくなります。食事や睡眠・運動など、日常の生活の仕方に注意を払い、持病のある人はきちんと治療を受け、体の健康を保つことを心がけましょう。

以上です。認知症を防ぐには生き方が大切です。もちろん、全く同じ行動をしても誰にも同じように変化が現れるわけではありませんが、簡単にできることですので実践しないのは損ではないでしょうか。
最後に、もし認知症の心配がある人はすぐに専門医に診てもらい、治療を受けることが重要です。

この記事は、医療や健康についての知識を得るためのもので、特定の見解を無理に推奨したり、物品や成分の効果効能を保証したりするものではありません。

写真/© Fotolia ©カラダネ

関連記事

この記事が気に入ったらいいね!しよう